芸術は時事、技術及び文化と共に拡大収縮しながら常に変化している。2012年はまさにこのことを実証する影響力のある作品の生まれた年であった。
芸術は時事、技術及び文化と共に拡大収縮しながら常に変化している。2012年はまさにこのことを実証する影響力のある作品の生まれた年であった。写真、彫刻、インスタレーション、フードデザインといった分野にわたって、アートの領域は視覚的素材で満ちあふれていた。そしてそれぞれがあらゆる感情を駆り立てる力を持っていた。designboomは順不同で2012年のトップ10を紹介し、常に変化を遂げる創造的な表現の世界で最も読者が評価した作品の一片を明らかにしてみたい。
1. ワーグナーの「指環」のヌードパブリックアートパフォーマンスがミュンヘンオペラフェスティバルで開催
アメリカ人インスタレーションアーティスト兼写真家のSpencer Tunickが、2012年のミュンヘンにおけるオペラシーズンのスタートに際して、彫刻的作品をヌードによる実演で披露した。135年もの間続くオペラフェスティバル、Bayerische Staatsoperのオープニングで、Tunickは1700人もの人間を公共広場に集め、彼らが個々の有機的な形態もしくはランドスケープとして参加することでこの音楽祭を祝した。このインスタレーションはBavarian State Operaに依頼された「指環」のために、ミュンヘンのMax-Joseph Platzで企画及び撮影された。裸のボランティアたちはその裸体を赤もしくは金に塗り、有名なオペラ作品、リヒャルト・ワーグナーの「ニュルンベルグの指環」から感動的なシーンを思い起こさせる造形を表現した。
Spencer Tunickによる「指環」, 2012年
写真提供:Bayerische Staatsoper
2. Tauba Auerbachによる「RGB Colorspace Atlas」
アメリカ人アーティスト、Tauba Auerbachがページごとにデジタルオフセットによる一連の色彩を施した8インチの立方体のハードカバー付き見本帳を制作。エアブラシで仕上げた布製の表紙及び本の小口とデジタルオフセットプリントによる紙面によって現存する全ての色を色彩豊かに表現している。この特別な製本はアーティスト自身がDaniel E. Kelmとのコラボレーションによってデザインした。Leah Hughesの協力を得て個人製本所、Wide Awake Garageが印刷を担当。
Tauba Auerbachによる「'RGB Colorspace Atlas」
写真提供:Brittany Schall
3. 1949年にパブロ・ピカソが描いた光のドローイング
当時LIFE Magazineのカメラマンだった Gjon Miliにパブロ・ピカソが紹介されたのは1949年のことだった。Miliはその頃、光を取り付けたスケート靴を履いて暗闇の中でジャンプするアイススケーターの写真を発表していた。それに興味を抱いたスペイン人の芸術家は、 彼独自のケンタウルス(雄牛とギリシャの神)を「描く」ための 2台のカメラ及び小さな照明を設置した暗室で、投影された光のドローイングのシリーズを生み出した。
パブロ・ピカソの光のドローイング(1949年)
写真提供:LIFE Magazine - Gjon Mili
4. Banksyの作品に動くGIFイメージを通して生命を吹き込む
セルビア人アーティスト、ABVHがBanksyによる名作を新たに解釈したアニメーションのGIFイメージを生み出した。Canal St. 及びWest Broadwayに描かれた「Kissing Coppers」、「No Stopping Rat Sign」、「Man Walking Keith Haring Dog」、「Pink Floyd: The Wall」、「Parking」、「Banksy Rat Mural」を含む6つの有名作品を利用したこれらのシリーズに著名なストリートパフォーマーは、GIFアートのからくりを用いて生命を吹き込んだ。作品は一時停止の標識を半狂乱で走りすぎるネズミや激しく吠え立てるキース・ヘリングの犬などといった予想される動きをオリジナルの原板に落し込んだもの。それぞれがBanksyの尊重されるべく遺作に活気を与えている。
ABVHによるBanksyの「Kissing Coppers」のGIFイメージ
5. photographs 写真が捉えるハンガリーの有害廃棄物の流出によって赤く染まった街
スペイン人写真家のPalíndromo Mészárosが「The Line」というシリーズを制作。このプロジェクトは2010年に西ハンガリーの有害廃棄物流出直後を記録にとどめたものだ。9人が死亡し、何千人もの市民を強制非難させたこの出来事を、村を赤く染めた物質でわかりやすく表現した作品だ。作品では被害に会った住民をほとんど取り上げていなく、街の景観に傷を残した有害な副産物に注目している。写真は全く加工されておらず、樹木や住宅、建物などの2mほどの高さに達した緋色の汚染を捉えている。
Palíndromo Mészárosによる「The Line」
6. Skypeがつなげる家族写真
現代の国際ファミリーに新しい肖像画法で家族をひとつにまとめるシンガポール生まれのニューヨークで活躍する写真家、John Clangによる写真シリーズ。特別な血縁集団が物理的にひとつの場所にいるかいないかにかかわらず、今では普通となったあちこちに離散する家族を繋ぎ合わせるこの作品シリーズでは、スカイプのビデオチャットシステムを利用した欠けたメンバーの投影によって家族の全てのメンバーを写真に収めることを可能にした。
John Clangによるシリーズ「be here now」より, 2012年
「パリ(と投影されたシンガポール)」: Stephanie Chi-Weng Tsui; 彼女の母のAlexia Wai-Chun Tye: Alexiaのパートナー、Pierre De Fouquet」
7. Olivier Grossetêteによる橋を吊るヘリウム気球
フランス人インスタレーションアーティスト、Olivier Grossetêteの作品、「Pont de Singe」は、夢幻的でシュールレアリズムなアイデアを呼び起こす。羽根のように軽い橋が3つのヘリウムで満たされた気球に吊られて、英国のTatton's Japanese Gardenの湖上に静かに浮かんでいる。Grossetêteのアートワークはデザインと構造の秩序を考慮しており、特にこの作品は彼の2007年の作品、「Pont Suspendu」の延長とされる。それは橋のような構造体を3つの気球で支えた類似したインスタレーションで、フランスのTretにあるChâteau Ferry Lacombeの上に浮かぶというもの。通常は現実の世界で空想にふけるためにとってある非現実的なイメージを置き換えることで、抽象的で繊細な感覚を喚起する作品。
Grossetêteによる「Pont de Singe」
写真著作権:Wilf
8. Leeum Samsung Suseum of ArtでのDo Ho Suhによる「Home within Home」
韓国人アーティスト、Do Ho Suhが個展で発表した最新作品は、垂れ下がる糸と薄い布の立体的なオブジェでソウル、ニューヨーク、ベルリンといった首都に住む彼の遊牧民的存在を表現したもの。彼は「家」というコンセプトを骨格の表現としてミュージアム全体に発展させ、かつギャラリースペースで境界とパッサージの双方としてこのコンセプトを具体化することで、本当にその場所に住むことの概念を探求している。
Do Ho Suhによる 「home within home」より「Seoul Home / Seoul Home」、2012年
シルク、金属補強材
写真提供:Leeum, Samsung Museum of Art及びアーティスト
9. 大胆な動きを描くヌードを丸山晋一が撮影
重力に耐えられなくなる直前のぶつかり合った液体のほんの一瞬を不朽のイメージとして捉えることで有名な写真家、丸山晋一。彼の最新の作品「Nude」では引き続き写真を通して「動き」を探求しており、従来のヌード芸術作品の表現を再形成しながら、それを時間との関係性に結びつけている。
抽象的で大胆な動きの肢体が隠れたキャンバス全体に芸術的な一筆を振るうように、空間いっぱいに肉体の動きを作り出す。このコンセプチュアルかつ芸術的な問いかけは、形体ではなく非常に軽い人間の動きの能力を通して、人間の肉体美やダンスや舞台、ジェスチャーの能力の一つを呼び起こす。
丸山晋一による「Nude #2」、2012年作
10. Emilie de Griottesによる「pantone tarts」
フランスの料理雑誌、Fricoteの特集のためにフランス人フードデザイナーのEmilie de Griottesが、パントンの色見本をリクリエイトするデザートタルトを開発した。下部を白くアイシングし、パントンの色番号を書いたタルトベースの上にベリー類、人参、レモン、キャンディ、その他の食材をアレンジする。このタルトの作り方はFricote Issue Number 6(2012)で参照可能。
FricoteマガジンのためにEmilie de Griottesが制作したタルト「Pantone 1797 C」